突けば槍、払えば薙刀 棒一本で刀に勝つ武道・杖道とは
木の棒一本で刀を持った相手を制圧する、「杖道」という日本の伝統武道があります。
この記事では、その概要や400年の歴史、そして棒一本で刀を制する技について詳しく解説します。
木の棒一本の武道
杖道は 「じょうどう」 と読み、長さ約128cm、太さ約2.4cmの白樫の木の棒(杖) を使って、刀(木刀)を持った相手を制圧する、伝統ある武道です。
杖道と呼ばれる武道・武術にはいくつかの派生がありますが、北海道大学杖道サークル 北志杖(ほくしじょう)で扱っているのは 「全日本剣道連盟杖道」 になります。

その競技人口はおよそ2万人と言われており、およそ200万人と言われる剣道と比べれば100分の1程度の規模になっています。しかし、全日本剣道連盟の三道(剣道・居合道・杖道)のひとつとして、全国各地の老若男女が稽古に打ち込んでいます。
杖道は、江戸時代初期の人物である夢想権之助(むそうごんのすけ)が開いた 「神道夢想流杖術(しんとうむそうりゅうじょうじゅつ)」 に遡る、約400年の歴史を持つ武道であるとされます。口伝では、権之助は宮本武蔵に一度敗れたあと、山中で修行を重ねて杖術を大成させ、武蔵を打ち破ったと言われています。
木の棒だけで刀を制する?
「刃のないただの木の棒で、どうやって真剣を持った相手を制するのか」── 初めて杖道を見ると、そう不思議に思われるかもしれません。
長さ約128cmの杖は、一般的な日本刀(約100cm)よりも長く作られています。そのため、相手の刀が届かない間合いから牽制し、先に主導権を握って動くことができます。
さらに、刀には斬る側(刃)と斬れない側(棟)があり、握り方や振る向きに制約があります。一方で、ただの丸い棒である杖には上下も裏表もありません。
そこで杖は、手の中で滑らせて間合いを変えたり、左右の手を入れ替えたりすることで、遠くから槍のように突き、薙刀のように足を払い、太刀のように押し当てて打つ ことができます。このように一本の棒から多彩に変化できる杖道の面白さは、古くから「突けば槍 払えば薙刀 持てば太刀」と言われてきました。

「傷つけずに制圧」古歌の教え
杖道に伝わる代表的な教えに、次のような古歌が残されています。
「傷つけず 人をこらして戒しむる 教えは杖の外にやはある」
(相手を傷つけて倒すのではなく、懲らしめて過ちを戒める。杖道の教えは、杖の外にこそある)
刀は本来、相手を斬るための武器であり、その殺傷性は認めざるを得ません。しかし杖道では、相手を傷つけずに刀を封じ、争いを収めること を目指します。
力任せに打ち負かすのではなく、相手の動きを見極めて受け流し、急所を制する技術には、400年の歴史の中で磨かれてきた工夫が詰まっていると言えるでしょう。
始めやすく、続けやすい
防具をつけて激しく打ち合う競技とは違い、杖道の稽古は あらかじめ手順が決まった「形(かた)」を二人一組で行うのが基本 です。
具体的には、木刀を持って攻撃を仕掛ける「打太刀(うちたち)」と、杖を持ってそれを受け流し制圧する「仕杖(しじょう)」に分かれ、お互いの呼吸を合わせながら形を演武します。
当てる直前で止める(「寸止め」)というルールが徹底されているため、激しくぶつかり合って怪我をする心配はほとんどありません。したがって、体力や体格差、運動経験に関わらず、誰でも安全に始められます。
加えて、決まった動きをなぞるだけと聞くと、単なる踊りのように思えるかもしれません。しかし実際には、長く稽古を重ねることによって身につけられる「メリハリ」やそれによって生まれる心地よい緊張感があり、まさに伝統ある芸術だと言えます。高齢の先生方の動きが美しく洗練されているのも、力に頼らず、身体の使い方やタイミングを極めているからです。
知らないからこそ、大学から
多くの「子どもの頃からやってきた経験者が圧倒的に有利」というスポーツや武道とは異なり、杖道を高校生までに経験している人は全国的にもごくわずかです。
実際のところ、北海道大学杖道サークル 北志杖(ほくしじょう)の部員も、ほとんど全員が「大学に入って初めて杖道を知った」という初心者 です。そして、より多くの人に杖道を知ってもらい、低いハードルから杖道を経験してもらうことを目標に、様々なサポートや環境づくりを掲げています!
誰にとってもスタートラインが同じだからこそ、自分の身体の使い方や武道の奥深さをじっくり探究し、大学の数年間で段位(初段・二段)を取得したり、全国大会を目指したりすることができます。
少しでも興味の湧いた方は、ぜひ道場で杖道の雰囲気を体験してみてください。
